私がまだ奥ゆかしい妻風に、毎日せっせと夫のお弁当を作っていた頃の話である。
翌日、会社のお昼休憩にお弁当を食べながらTwitterをみていた私。
目に飛び込んできた夫のツイートに、愕然とした。
いただきます!
#しゃぶしゃぶの木曽路
#すきやき
すきやき食べとるやないかい!
しかも、木曽路て!!
荒ぶる心の獅子を押さえつけるため冷静にならねばと、自作のお弁当に目を落とした。
そこには、「目隠しをされながら、作ったのでは?」あるいは、寄席や宴会の余興で演じられる「二人羽織で作ったのか?」と誰もが疑問を抱くほどに、雑、且つ質素なお弁当があった。
自分のお弁当はどうでもいいと投げやりに作った結果、予想以上の大作ができてしまったのだ。
完全に、逆効果であった。
獅子は押さえつけられるどころか、もはや手が付けられないほどに、猛り狂う始末だ。
なぜなら、私はしゃぶしゃぶの木曽路が大好きだからだ。
木曽路で、優雅にすきやきに舌鼓を打つ夫。
一方、自作の「二人羽織弁当」をむさぼる妻、ピー子。
まさに、格差社会の縮図である。
おお神よ!
あなたはなぜ私に、苦難をお与えになる?
木曽路のことを猛烈に考えていたら、ある出来事を思い出した。
数年前まで約10年ほど、お茶のお稽古(茶道のお教室)に通っていた。
お稽古が終わり、お着物(薄ピンクの色無地)のままごはんを食べに、しゃぶしゃぶの木曽路へ行った時のこと。
お手洗いにいって、席に戻る途中に……。
明らかに、私に話しかけてきている。
恐れていた事態が起こった。
ワシ、店員さんと間違われてるやん。
そう、木曽路の店員さんは皆、お着物をきているのだ。
客に恥をかかせまいと、注文を取るという選択が頭をよぎった。
木曽路のメニューは、熟知している。
一度、頭の中でシュミレーションをしてみる。
よし、完璧だ。
その時……。
オーダーを取ろうとした直後、本物の店員さん登場。
三次元の、リアル店員さんだ。
偽物はこそこそと、退散することにした。
これが世に言う、注文取り未遂事件だ。
皆さまも下記のようなケースには、十分ご注意くださいませ。
お着物で「しゃぶしゃぶ木曽路」にお食事に行かれる場合
店員さんに間違われ、注文を取る羽目になります。
「ドカジャン」を来て、工事現場付近をうろつく場合
「オイ、バイト~!コーヒー買ってこい!」とパシリにされます。
最悪のケースは、細い板の上をネコグルマ(工事用の一輪車)に、砂利を山盛りつんで運ばされます。
「伊勢丹の紙袋柄のジャケット」で、伊勢丹に行かれる場合
買い物をして、紙袋を渡されてから家に帰るまでずっと、ジャケットと紙袋のリンクコーデになります。
「キャー!COWCOWの多田さんですよね?大ファンなんです」と声をかけられたら、快くサインに応じてあげましょう。
部屋着として「サムイ」着用時に、誤って壺を落としてしまった場合
人間国宝の陶芸家が、作品に納得がいかなくて壊していると勘違いされます。
大やけどや骨折で入院していたのに、急にお墓参りにいくハメになった場合
ゾンビと間違われ、鉄パイプで攻撃されます。
相手は、確実に倒そうとして脳の破壊か、首の切断を狙ってくるため軽症ではすみません。
入院期間が、長引くことになるでしょう。
これが、間違った社会の縮図です。