エッセイ

吾輩はぬこである。ネコ語、通じず。

ネコ

「ヒャッ、ヒャッ」

「アッオー、アッオー」

 

アタチはネコ。名前はまだない。

怖いとき、不安なとき独特の鳴き方になる。

アタチは「保護ネコ」というものらしい。

生まれてまもなく、お肉屋さんの前に捨てられた。

どこかで聞いた有名な俳人「尾崎放哉」の孤独を表現した句を思い出す。

「咳をしても一人」

今のアタチは、「咳をしても一匹」

カラスにつつかれ、大ネコにおそわれ……。

「あかん、ヒジ痛っ!」

「外、しんどっ!」

 

そんなとき、優しい保護主さんに助けられた。

どうやら、お肉屋のけんちゃんが連絡してくれたおかげらしい。

そんな話を、小耳にはさんだ。

小耳というのは、ちょっとした情報をはさんでおくのに非常に便利だ。

 

保護主さんがアタチをケージにいれて向かった先は「譲渡会」なるものだった。

別に「ティンダー」とか、マッチングアプリでもよかったのに。

イケメン希望♡

 

それから5日後、保護主さんが再びアタチをケージにいれ「譲渡会」で決まった譲渡先へ向かうことになった。

今日は、録画していたミニドラマ『きょうの猫村さん』をイッキ見する予定だった。

バイプレイヤーの松重豊ニャンが、ネコの家政婦役でおもろいニャー。

それニャのに、お出かけ!

「今日じゃなきゃダメなんですか?」と蓮舫さん風にいってみたが、シカトされた。

 

アタチを引き取ってくれるおうちに、到着。

保護主さんは帰り、今日からピー子とその夫との生活がはじまる。

アタチ:「……」

ピー子:「イギー」

夫:「今日から名前、イギーだよ」

イギー:「……」

オイ、イギーて!『ジョジョの奇妙な冒険』の犬の名前やないかーい!

というツッコミは、声にならない。

ラーラーラー ララッーラー……言葉にできニャイ♪

 

ピー子:「あれ?イギー鳴かない。鳴けないの?もしや声帯除去された……?」

イギー:「アッオー、アッオー」

夫:「アッオー?もしや、声帯にキズ……?」

イギー:「警戒してるだけじゃい!」

「お宅のイギーさんの、声帯は除去もキズもなし!キレイなもんですよ」

主治医の話も交えつつ説明するも……

ネコ語、通じず。

咳をしても一匹。

 

数日後、ピー子と夫がアタチについて、なにやら話をしている。

ピー子:「イギー本当にアメショーかなぁ?柄ちがくない?」

夫:「たしかに!でも、保護主さんのブログに書いてあったような……」

イギー:「はっ?どうみてもアメショーじゃねーだろ」

イギー:「日・本・ネ・コ」
イギー:「キ・ジ・ト・ラ」

ネコ語、通じず。

咳をしても一匹、再び。

夫:「ピー子!保護主さんのブログあったよ。みてー」

ピー子&夫:「ア・メ・シ・ョー・顔!?」

ピー子&夫:「顔て、ヒャッヒャッヒャッヒャッヒャー」

イギー:「秘技!アメショー顔。シャキーン!」

ピー子&夫:「……」

ネコ語、通じず。

咳をしても一匹、リターンズ。

 

2人は最近『大豆田とわ子と三人の元夫』というドラマにハマっているようで
アホ面をして、テレビ画面に釘付けだ。

岡田将生が演じる3番目の元夫、ひねくれ者のエリート弁護士の「それ、いります?」「あいさつっていります?」「お土産っていります?」という口癖がお気に入りだ。

そんな1週間の始まり。

「それ、いります?」のあるあるで遅くまで盛り上がっている、そんな2人。

ピー子:「ベージュのピッタリした服っていります?」

ピー子&夫:「いらねー!裸かと思って二度見するわー」

夫:「試食の味見をすすめられた時、手の甲につくだ煮とかのせられるやついります?」

ピー子&夫:「いらねー!手ぇ、どこで拭くねん」

ピー子:「保険の営業マンが、文字を逆さまに書くやついります?」

ピー子&夫:「それは、いるわー!見やすいやん」

 

イギー:「マオー、マオー(訳:おまえらヒマか、はよ寝ろや!)」

夫:「イギーのマオーって、独特の鳴き方!!」

イギー:「マオー」

ピー子&夫:「浅田」

イギー:「マオー」

ピー子&夫:「浅田」

イギー:「マオー」

ピー子:「マオーっていります?」

夫:「浅田真央ちゃんはいるだろ。日本のフィギュアスケートを盛り上げてくれた、メダリストだろがい」

夫:「イギーっていります?」

ピー子&夫:「いるわー。我が家の、日本の、いや世界の宝や」

イギー:「ミャオーミャオー(訳:アガる~)」

ピー子&夫:「……」

イギー:「シカトか」

このおバカなピー子と夫の家にきて、二年。

相も変わらず、ネコ語、通じず。

しかし……しあわせだ。

咳をしたら一匹と二人。