エッセイ

アルバイトから東証一部上場企業正社員に採用された「コネ入社術」

「ここ、ええやん」

短大に入学後、私はすぐにアルバイトを探し、目をつけたのが高級寿司屋だ。

親元を離れて都会にでてきた私は、人のぬくもりに飢えていた。

バイト募集要項からツンツンに伝わってくる、本わさびのようなアットホーム感。

「クゥー!キミにきめた!」

ポケモンならぬ寿司モンである。

最高のバイトリーダーになるための旅が始まった。

お店にバイトリーダー制度があるかどうか、最後まで聞けなかったのが唯一の心残りだ。

高級寿司屋のモンスター(略して寿司モン)紹介

大将 : たいしょう
女将さん : おかみさん
スギちゃん : 弟子
ピー子 : アルバイト
はなこ : アルバイト
うしお : アルバイト

メンバーの誰かにライスボールをぶつけて、捕獲しようかとひそかに目論んだが……。
「バイト代ゲットだぜ!」という前にクビになりそうなので、グッとこらえた。

 

「ピー子ちゃん、あがりひとつ! 」
「ピー子ちゃん、今日はいい関アジと関サバがはいってるよ」

大将の威勢のいい声が響きわたる。

「あがり?」「関アジ?」

彼は一体なにを言っているのか?「ぎょぎょぎょ!」である。

仕事にもなれてきて、あがりがお茶であることや、関アジと関サバがなんやかんやで、おいしい高級ブランド魚であるということもわかってきた。

アルバイトの主なしごと

  • 開店前の掃除
  • カウンターのセッティング
  • 注文をとる
  • 配膳
  • 食器を洗う

そして、セレブリティー達との気の利いたトークだ。

もっとも重要なのは、まかないを食べることと、たまに弟子のスギちゃんがこっそり食べさせてくれる穴子に舌鼓を打つことだ。

 

お店にメニューはなく、おまかせもしくは、ガラスケースに入ったネタを大将が紹介し、にぎるという「高級寿司屋システム?」を採用していた。

お会計は、約4センチ四方の異常なまでに小さいメモを「大将!」と女将さんが渡すと、
「あいよ!」となにか書いてもどってくる。

もしこれがオフィスラヴならば、「今夜、いつものラウンジで20:00に♡」とでも書いてあることは想像に難くない。

しかし、時価の高級寿司屋のお会計金額の真相は藪の中である。

お客様の支払い金額が、我々アルバイトの目に触れることは皆無である。

 

常連さんの中に、東証一部上場企業の役員、藤川さんがいた。

大手企業の役員さんらしからぬ気さくさと、芸人バリの話術、破天荒さが魅力で彼の周りにはいつもたくさんの笑いがあり、人がいた。

藤川さんの、わざわざ両替した1,000円札を大量に持ち歩き、ビラビラさせたり汗を拭く鉄板ギャグで寿司屋中が大爆笑に包まれていた。

「キャー♡ 藤MAX~」である。

ある日、アルバイト中にトイレにたった藤川さんとすれ違った。

すれ違いざまに、「オイ、お前!パソコンって何かわかるか?」と藤川さん。

「はい。パーソナルコンピューターであります」私は間髪入れずに答えた。

「ピー子さん、卒業したらうちで働いてみるか?」

短大1年の冬、東証一部上場企業から内定をもらった瞬間である。

それと同時に、始めてもいない就活が終わった瞬間でもあった。

入社後に、藤MA…いや、藤川さんは私の寿司屋での接客や、笑顔、気配り、彼のエグすぎる下ネタの受け流しテクなどを高く評価してくださっていたと話してくれた。

 

このエッセイを書くにあたって、もしや……と思い調べてみた。

コネ入社
読み方:コネにゅうしゃ

能力や適正など通常入社の条件とは関係なく、個人的なコネクションを通じて企業に入社すること。人事権を握っている人間と懇意にしていたり、一般入社社員とは別ルートで採用が決定するパターンがある。

あかん、ワシ、コネ入社や!

ポケモンもバトルを経て進化する。

ピカチュウ

ピチュー → ピカチュウ → ライチュウ

ピー子

たそがれ短大生 → 自称バイトリーダー → 東証一部上場企業社員

がんばっていたら、必ず誰かがみていてくれる。

「就職ゲットだぜ!」