エッセイ

続、母の名言「人間は口と足があれば生きていけるのよ」を実践。

車

会社では「お金を司る」でおなじみの、経理を担当している私。

月に1度、銀行に行かなければならないが、気が重い。

なぜなら、銀行のすぐ横にある第1駐車場はあまりにも狭く、迷い込んだら最後……。

車の運転、特に駐車が苦手な私にとってわずかなハンドル操作ミス、それはすなわち「死」を意味するからである。

「ノー フューチャー ノー フューチャー フォー ミー♪」である。

 

「Xデー」は今日だ。

出社後、そうじを終えて9:00頃。

ピー子
ピー子
銀行へいってきます

「(心の声)誰か代わりに、銀行いってこいや」と笑顔で同僚たちに告げ、車のエンジンをかけた。

BluetoothでiPhoneに接続されるまでの数秒の間に、ラジオが流れた。

「There’s no future, no future No future for you♪」

訳:お先真っ暗、未来はねえ、未来なんてねえんだ、お前には♪

Sex Pistols の名曲『God Save The Queen』だ。

私のこれからを暗示しているようで、心の中に暗雲が立ち込めてきた。

目指すは、第2駐車場。

ブウゥ~〜〜 ブウゥ~〜〜 ブウゥ~〜〜

「敵は第2駐車場にあり!ヤァァァァァァー!」

銀行まで、すこし距離があるしそこまで広くはないが、狭い第1駐車場よりましだ。

入り口からみて、左右4台ずつ駐車できるスペースがある。

左の1番奥と右側の手前が空いていた。

どちらがとめやすいのか……。

左か……。右か……。右か……。左か……。

気分は、時限爆弾処理班だ。

この月末の忙しいさなか、帰社希望時刻まで残り時間わずか!

選択ミスが意味するのは、またしても「死」。

「左だ!」

アクセルをゆっくりと踏み込み、ハンドルを切る。

気付いた時には、もう手遅れだった。

薄れゆく意識、迫りくる恐怖と絶望……。

駐車失敗である。

もう、前にも後ろにも行けない……。

車と私、一進一退の攻防戦だ。

前進と後退を繰り返し、右に左に何度もハンドルを切る。

チャッチャチャチャッチャ♪
チャッチャッチャチャッチャ♪

チャッチャチャチャッチャ♪
チャッチャッチャチャッチャ♪

チャチャチャッ・チャチャチャッ♪

「ウーッ!非アミーゴ!」

ハンドルを切り始める直前と、ぴったり同じ場所に戻った。

その時、母がよく言っていた言葉を思い出した。

お母さん
お母さん
ピー子ちゃん、人間は口と足があれば生きていけるのよ

別の母の名言はこちら

恐怖
母の名言「1番こわいのは人間よ」を体験する。「お母さん、1人じゃ行けないからトイレついてきて」 幼い頃、私は極度の怖がりだった。 夜中に1人でトイレに行くぐらいなら、も...

そうだった、お母さん!

困ったら、誰かに聞いたり助けを求める。

そして、歩けばどこかに行ける。

 

私は、具合のいい人を探し始めた。

「求む、具合のいい人!」

「集え、具合のいい人!」

その時、ブロロロロロー。

腹に響くようなエンジン音を轟かせて、現行GTRが現れた。

さっそうと降りてきた男性(以下「救世主」という)に駆けよった。

ピー子
ピー子
車がとめられなくなりました。助けてください
救世主
救世主
わかりました。誘導するので乗ってください
ピー子
ピー子
はい
救世主
救世主
バックしながら、ゆっくりハンドル切ってください
ピー子
ピー子
どっちに切ればいいですか?
救世主
救世主
左です。そうそう、ゆっくり。もう少し切って大丈夫です
ピー子
ピー子
はい。あぁ、できた。助かりました。本当にありがとうございました

何度もお礼を伝え、銀行方面に歩いて行く救世主を見送った。

しかし、この感謝の気持ち、伝え切れていない!

不完全燃焼だ。

銀行に向かう途中にある自販機で、お茶を買って後を追った。

ATMにいる救世主を発見!

お茶を渡して再度、感謝の気持ちを伝えるべく、観葉植物の隙間から救世主の様子をうかがった。

ストーカーか!

なんとか救世主をつかまえ、お茶を渡すことができた私。

完全燃焼だ。

「お母さん、確かに人間は口と足があれば生きていけるね」

「でも、あともう1つ必要だったよ。お金だわ」

「お金でお茶を買ったからねっ!」

 

会社だけでなく、これからは人生でも「お金」を司ってやる!

そう心に誓う、ピー子であった。