エッセイ

「いえ、違います!私ゾンビじゃありません」

夫:「明日はお弁当いらないから」

ピー子:「どしたん?」

夫:「研修があるから、外で食べる」

私がまだ奥ゆかしい妻風に、毎日せっせと夫のお弁当を作っていた頃の話である。

 

翌日、会社のお昼休憩にお弁当を食べながらTwitterをみていた私。

 

目に飛び込んできた夫のツイートに、愕然とした。

いただきます!

#しゃぶしゃぶの木曽路
#すきやき

 

「すきやき食べとるやないかい!しかも、木曽路てっ!!」

 

荒ぶる心の獅子を押さえつけるため冷静にならねばと、自作のお弁当に目を落とした。

そこには、「目隠しをされながら、作ったのでは?」あるいは、寄席や宴会の余興で演じられる「二人羽織で作ったのか?」と誰もが疑問を抱くほどに、雑、且つ質素なお弁当があった。

自分のお弁当はどうでもいいと投げやりに作った結果、予想以上の大作ができてしまったのだ。

完全に、逆効果であった。

 

獅子は押さえつけられるどころか、もはや手が付けられないほどに、猛り狂う始末だ。

なぜなら、私はしゃぶしゃぶの木曽路が大好きだからだ。

 

木曽路で、優雅にすきやきに舌鼓を打つ夫。

一方、自作の「二人羽織弁当」をむさぼる妻、ピー子。

 

まさに、格差社会の縮図である。

 

おお神よ!あなたはなぜ私に、苦難をお与えになる?

 

木曽路のことを猛烈に考えていたら、ある出来事を思い出した。

 

数年前まで約10年ほど、お茶のお稽古(茶道のお教室)に通っていた。

お稽古が終わり、お着物(薄ピンクの色無地)のままごはんを食べに、しゃぶしゃぶの木曽路へ行った時のこと。

 

お手洗いにいって、席に戻る途中に……。

 

客:「あの~、すみません」

 

明らかに、私に話しかけてきている。

 

ピー子:「はい!?」

客:「注文いいですか?」

 

恐れていた事態が起こった。

 

ワシ、店員さんと間違われてるやん。

そう、木曽路の店員さんは皆、お着物をきているのだ。

 

客に恥をかかせまいと、注文を取るという選択が頭をよぎった。

木曽路のメニューは、熟知している。

一度、頭の中でシュミレーションをしてみる。

 

客:「しゃぶしゃぶをお願いします」

ピー子:「かしこまりました」

ピー子:「お肉はどうなさいますか?」

客:「和牛特選霜降肉で」

ピー子:「和牛特撰霜降肉でございますね」

ピー子:「御飯は、十六穀米に変更できますが」

客:「十六穀米で」

よし、完璧だ。

 

その時……。

店員さん:「ご注文でございますか?」

 

オーダーを取ろうとした直後、本物の店員さん登場。

三次元のリアル店員さんだ。

 

偽物はこそこそと、退散することにした。

これが世に言う、注文取り未遂事件だ。

 

皆さまも下記のようなケースには、十分ご注意くださいませ。

 

お着物で「しゃぶしゃぶ木曽路」にお食事に行かれる場合

 

店員さんに間違われ、注文を取る羽目になります。

 

「ドカジャン」を来て、工事現場付近をうろつく場合

 

「オイ、バイト~!コーヒー買ってこい!」とパシリにされます。

最悪のケースは、細い板の上をネコグルマ(工事用の一輪車)に、砂利を山盛りつんで運ばされます。

 

「伊勢丹の紙袋柄のジャケット」で、伊勢丹に行かれる場合

 

買い物をして、紙袋を渡されてから家に帰るまでずっと、ジャケットと紙袋のリンクコーデになります。

「キャー!COWCOWの多田さんですよね?大ファンなんです」と声をかけられたら、快くサインに応じてあげましょう。

 

部屋着として「サムイ」着用時に、誤って壺を落としてしまった場合

 

人間国宝の陶芸家が、作品に納得がいかなくて壊していると勘違いされます。

 

風邪で1週間ほどお風呂に入っていなかったのに、急にお墓参りにいくハメになった場合

 

ゾンビと間違われ、鉄パイプで攻撃されます。

相手は、確実に倒そうとして脳の破壊か、首の切断を狙ってくるため軽症ではすみません。

 

これが、間違った社会の縮図です。