アタチはネコ。
名前はまだない。
怖いとき、不安なとき独特の鳴き方になる。
アタチは、「保護ネコ」というものらしい。
生まれてまもなく、お肉屋さんの前に捨てられた。
どこかで聞いた有名な俳人「尾崎放哉」の孤独を表現した句を思い出す。
「咳をしても一人」
今のアタチは、「咳をしても一匹」
カラスにつつかれ、大ネコにおそわれ……。
そんなとき、優しい保護主さんに助けられた。
どうやら、お肉屋のけんちゃんが連絡してくれたおかげらしい。
そんな話を、小耳にはさんだ。
小耳というのは、ちょっとした情報をはさんでおくのに非常に便利だ。
保護主さんがアタチをケージにいれて向かった先は「譲渡会」なるものだった。
別に「ティンダー」とか、マッチングアプリでもよかったのに。
イケメン希望♡
それから5日後、保護主さんが再びアタチをケージにいれ「譲渡会」で決まった譲渡先へ向かうことになった。
今日は、録画していたミニドラマ『きょうの猫村さん』をイッキ見する予定だった。
バイプレイヤーの松重豊ニャンが、ネコの家政婦役でおもろいニャー。
それニャのに、お出かけ!
と、蓮舫さん風にいってみたがシカトされた。
アタチを引き取ってくれるおうちに、到着。
保護主さんは帰り、今日からピー子とその夫との生活がはじまる。
というツッコミは、声にならない。
ラーラーラー ララッーラー……言葉にできニャイ♪
主治医の話も交えつつ説明するも……。
ネコ語、通じず。
咳をしても一匹。
数日後、ピー子と夫がアタチについて、なにやら話をしている。
ネコ語、通じず。
咳をしても一匹、再び。
ネコ語、通じず。
咳をしても一匹、リターンズ。
2人は最近『大豆田とわ子と三人の元夫』というドラマにハマっているようで
アホ面をして、テレビ画面に釘付けだ。
岡田将生が演じる3番目の元夫、ひねくれ者のエリート弁護士の「それ、いります?」「あいさつっていります?」「お土産っていります?」という口癖がお気に入りだ。
そんな1週間の始まり。
「それ、いります?」のあるあるで遅くまで盛り上がっている、そんな2人。
このおバカなピー子と夫の家にきて、二年。
相も変わらず、ネコ語、通じず。
しかし……しあわせだ。
咳をしたら一匹と二人。