エッセイ

「自意識過剰かいじゅう」現る

1人で車で出かけて、コンビニに寄る。

 

同じ車種の別の車に乗り込もうとして、運転手にビックリされた。

 

よく、そんな話を聞くことがある。

 

「車あるある」である。

 

 

私はそのようなミスは犯さない、絶対に。

 

コンビニを出て、しっかりと自分の車に乗り込む。

 

しかし、乗り込んだ直後の自分にビックリさせられる。

 

 

1人で来ているのに、助手席に乗り込むのだ。

 

しかも、わりと頻繁に……。

 

そんな時は、荷物をとったフリをしてしれっと運転席に乗りなおす。

 

それは誰に向けての何アピール?

 

これはもはや、自分との真剣勝負だ。

 

 

しかし、「ただのドジ」で片付けられる問題ではない!

 

私は、前世か過去世で大手企業の重役、あるいは政界の要人だったに違いない。

 

だから、自分で運転する習慣がないのだ。

 

「それなら後部座席だろ!」というツッコミは、やめていただきたい。

 

 

ピー子
ピー子
お抱え運転手さん!お暇をいただいているならそろそろ戻ってきてくれ!

 

 

ピー子
ピー子
頼む!この通り、頭を下げさせてもらおう

 

 

 

ある日、車のディーラーからイベントのお知らせが届いた。

 

ハガキをもって来店すると、オイル交換チケットとワッフルがもらえるという。

 

平日だったが、はりきり坊やの私は有給を取得。

 

 

オープン時間到着を目がけて、ディーラーへと車を走らせた。

 

 

駐車場に愛車を止め降りたところで、横に駐車していたおじさんに話しかけられた。

 

 

おじさん
おじさん
エンジン、変な音してるよ。壊れてるんじゃない?

 

 

ピー子
ピー子
はっ、はぁ……

 

 

おじさん
おじさん
ちゃんと修理しなきゃ、ダメだろ

 

 

乱暴な捨て台詞を残し、車を発進させるおじさんを見送りながら……。

 

私は、怒りがこみ上げてくることを禁じ得なかった。

 

 

ヘイ、おっさん!

 

これは「フィアット500・ツインエア・875CC・2気筒ターボ」だぞ!

 

※2気筒は、バイクのような独特の振動と音がするため故障と勘違いしたのであろう。

 

 

故障だと?

 

故障しているのは、Youの耳では?

 

おっさんよ、さっさとこの場を離れて正解だったな!

 

 

もしこれ以上この場にとどまっていたら、カプコンの対戦格闘ゲーム「ストリートファイター」のリュウの技が炸裂するところだったぞ!

 

 

おっさん VS 激おこピー子

 

ラウンド1!ファイト!

 

波動拳!

波動拳

竜巻旋風脚!

昇竜拳!

 

K.O.

 

ピー子!

 

YOU WIN

 

 

実際には「はっ、はぁ……」と笑顔で答えた私。

 

 

我、試合に負けて勝負に勝つ!!

 

 

それから数ヶ月後の、ある日。

 

2車線の国道を走行中に、赤信号で停車。

 

ふと隣をみると、私と同じフィアット500が不自然に車間を空けて横にとまった。

 

 

運転席のマスクの男性が手を振りながら、なにか話しかけてくる。

 

もしや、フィアット500乗りにはあいさつを交わす暗黙のルールがあるのか?

 

満面の笑みで親指を突き立て、サムズアップをしてみた。

 

即席のフィアット500のりあいさつをフルシカトし、なおも話し続ける500男。

 

彼の熱意に負け、窓をあける。

 

 

500男
500男
こんにちは!モジャモージャ、モジャ

 

 

マスクとエンジン音で、なにを言っているのかわからない。

 

 

ナ、ナンパか!?

 

 

ナンパだな、オイ!

 

 

笑止千万!!

 

 

ピー子
ピー子
いけません、殿方!私には愛する夫が……

 

 

そう言いかけた瞬間、500男はマスクを取った。

 

 

500男
500男
ピー子さん、お世話になっております。お仕事帰りですか?

 

フィアットの店長さんやないかーーい!

 

 

自意識過剰すぎた、自分を恥じる。

 

 

フィアット店長 VS 自意識過剰怪獣ピー子

 

ラウンド2!ファイト!

 

店長の先制攻撃。

 

波動拳!

波動拳!

竜巻旋風脚!

昇龍拳!

 

K.O.

 

ピー子!

 

YOU LOSE

 

 

我、試合に負けて勝負にもまける!!

 

 

いまだにお暇をいただいている、お抱え運転手さん。

 

そろそろ本当に戻ってきてくれ!

 

 

ピー子
ピー子
頼む!この通り、アスファルトに額をこすりつけて詫びさせてもらおう

 

 

自分のバカさ加減に心が折れて、もう一歩も動けないんだ……。

 

 

そして、おっさん、すまなかった。

 

故障していたのは、私の愛車でもおっさんの耳でもなく、私の自意識だ。